胃潰瘍・十二指腸潰瘍

潰瘍とは

胃潰瘍とは胃や十二指腸の内壁にできた傷のことを「びらん」や「潰瘍」と呼びます。浅い傷をびらんと呼び、深い傷を潰瘍として分けています。胃・十二指腸潰瘍の一般的な症状としては、心窩部(みぞおち)の痛みや不快感、悪心、腹部の膨満感などが挙げられます。これらの症状は、潰瘍による胃の刺激や炎症によって現れます。また潰瘍によって胃や十二指腸の粘膜から出血すると、黒色嘔吐や吐血、黒色便/タール便、血便、貧血症状などがみられることもあります。
胃十二指腸潰瘍の2大原因は、ヘリコバクターピロリ(H. pylori)菌の感染と、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用です。H. pylori感染は胃潰瘍の主要な原因の一つであり、適切な治療が必要です。非ステロイド性抗炎症薬は炎症を抑える効果がありますが、胃の粘膜に損傷を与え、胃潰瘍を引き起こすことがあります。日本ではピロリ菌の除菌治療が進んでいることと、NSAID潰瘍の予防薬としてPPIなどを処方する医師が増えたことで、胃十二指腸潰瘍の患者数はかなり減少しました。
胃十二指腸潰瘍の治療には、まず原因を特定し、適切な治療方法を選択する必要があります。これには医師による診察や胃カメラ検査が不可欠です。胃十二指腸潰瘍は重篤な疾患であり、放置しておくと出血や狭窄(食物の通り道が狭くなってしまうこと)、穿孔(胃腸に穴が空いてしまうこと)などに発展して危険なため、早期治療が重要です。症状がある場合は、医師に相談し、適切な処置を受けるようにしましょう。

胃・十二指腸潰瘍の症状

よくある症状

胃・十二指腸潰瘍になると下記のような症状が現れることがあります。
胃潰瘍は、食後に痛みが悪化することが特徴です。
一方、十二指腸潰瘍は空腹時に痛みがみられることが多いとされていますが、非典型的なケースも多いです。
また潰瘍が軽度である場合や一時的なものであれば、症状がほとんどない場合もあります。

  • 心窩部あたりの痛み、背中の痛み
  • 腹部膨満感、げっぷ
  • 吐き気、黒色嘔吐、吐血
  • 下血/黒色便/タール便、血便

重度の徴候や症状が
現れる場合も?

以下のような重度の徴候や症状が現れる場合もあります。
これらの症状が現れた場合は、早急に医師の診察を受けて、必要に応じて検査を受ける必要があります。
また、市販の薬を服用し、痛みが和らいだとしても、痛みが再発する場合は、医師の診察を受けてください。

  • 吐血または嘔吐(赤または黒に見える)
    →出血性潰瘍(潰瘍から出血している)の可能性がある
  • 便中の暗い血、黒またはタール状の便
    →出血性潰瘍の可能性がある
  • 呼吸困難
  • 失神、貧血症状
    →出血性潰瘍の可能性がある
  • 吐き気または嘔吐
    →潰瘍による狭窄(通り道が狭くなる)の可能性がある
  • お腹の強い痛み
    →潰瘍による穿孔(胃や腸に穴が空く)の可能性がある
  • 原因不明の体重減少
  • 食欲の低下

胃潰瘍の合併症

胃潰瘍を治療せずに放置してしまうと、消化性潰瘍は次のような状態になる可能性があります。

出血

入院や輸血が必要なほどの重度の出血をきたす可能性があります。
重度の出血では、黒い便または赤い便が出ることや、血液検査で貧血を認めることがあり、これらによって気づくことがあります。

消化管穿孔

胃潰瘍・十二指腸潰瘍が進行すると、消化管の粘膜が穿孔(穴が空くこと)し、それによって腹腔内に重篤な感染症(腹膜炎)が発生するリスクがあります。穿孔すると激しい心窩部痛や背部痛を認めることがあります。

通過障害

消化性潰瘍では、消化管内の食物の通過が阻害される可能性があります。炎症や瘢痕形成(潰瘍が治ってできた傷痕)により、早期満腹感や嘔吐、体重減少もみられることがあります。

胃がん

ピロリ菌感染者は胃がんの発症リスクが高いことが示されています。胃潰瘍と胃がんは見た目が似ていることもあり、間違えられることがあります。

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胃・十二指腸潰瘍の主な原因

胃・十二指腸潰瘍の一般的な原因は以下の通りです。
これらの原因が複合的に作用することで、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が発生する可能性があります。

ピロリ菌感染

ヘリコバクターピロリ(H. pylori)菌の感染が主な原因とされています。この菌は胃粘膜に感染し、炎症を引き起こして潰瘍を形成する可能性があります。血液検査や尿素呼気試験などによりピロリ菌陽性が判明した場合、除菌治療を受けることで胃・十二指腸潰瘍の発症リスクを抑制することができます。

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長期間の非ステロイド性
抗炎症薬(NSAID)の使用

長期間に渡る非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやアスピリンなど)の使用は、胃粘膜を傷つける可能性があり、胃潰瘍の原因となります。頭痛や生理痛などで痛み止めを頻回に使用する方では胃潰瘍のリスクがありますので、胃粘膜保護薬や酸分泌抑制薬を一緒に内服することで胃潰瘍を予防します。

過度の胃酸分泌

胃酸の分泌が過剰な場合、胃粘膜に対する攻撃因子が増加し、潰瘍を引き起こす可能性があります。

ストレス

長期間に渡るストレスや精神的な負担が、胃酸分泌を増加させ、十二指腸潰瘍の発症リスクを高めることがあります。十二指腸潰瘍はピロリ陰性の若年層でも発症することがあるため注意が必要です。

遺伝要因

胃潰瘍の発症に関連する遺伝的な要因が存在する可能性があります。

生活習慣

喫煙

タバコに含まれるニコチンが、胃の粘液分泌を低下させたり、胃酸の分泌を増加させることで、胃・十二指腸潰瘍のリスクが高まると言われています。

アルコール

アルコールの摂取は胃の粘膜を刺激し、侵食する可能性があります。また、アルコール摂取によって生成される胃酸の量が増加するため、胃・十二指腸潰瘍のリスクが高まります。

辛い食べ物

辛い食べ物は一時的に胃酸分泌を増加させることがあります。そのため、長期間に渡って辛い食べ物を摂取することで、胃・十二指腸潰瘍のリスクが高まる可能性があります。

胃・十二指腸潰瘍の診断

胃潰瘍の診断は、病歴の聴取、身体的な診察、および追加の検査を組み合わせて行います。
まず、患者様の症状や病歴について詳しく尋ねます。これには痛みや不快感の特徴、食事との関連性、薬の使用、喫煙やアルコールの摂取などが含まれます。次に、身体的な診察を行います。これには腹部の触診や打診、胃部の聴診などが含まれます。診察結果から、痛みや腫れ、異常な感触などが確認される場合があります。さらに、追加の検査が必要な場合があり、一般的な検査には以下のものがあります。
これらの検査結果を総合的に評価し、胃潰瘍の診断を行います。

胃カメラ検査

潰瘍の有無やその程度を確認するために行われます。胃や十二指腸の内部を観察し、必要に応じて生検も行います。

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ピロリ菌陽性者に発生した
胃潰瘍

痛み止め薬を連用して発症した
多発胃潰瘍

進行胃癌

尿素呼気試験

ピロリ菌感染の有無を調べるために行われます。患者様が呼気を吹き込むことで、検体が分析されます。

血液検査

ピロリ菌感染の有無や貧血の程度を調べるために行われます。血液中の特定のマーカーが検査されます。

胃・十二指腸潰瘍の治療

薬物治療

酸の生成をブロックし、
治癒を促進する薬

プロトンポンプ阻害剤(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)は、胃酸を生成する細胞の働きを抑制することによって胃酸の分泌を減らす薬です。胃・十二指腸潰瘍の治療において一般的に使用される薬剤です。

胃酸を中和する制酸剤

制酸剤は、胃酸を中和することで、痛みを素早く緩和する効果があります。ただし、副作用として便秘や下痢などがあります。

胃や小腸の内壁を保護する薬

胃や十二指腸の粘膜を保護する作用がある薬も使用されることがあります。これらの薬は、胃酸や消化液が粘膜に与える刺激を軽減し、傷つきやすい部位を保護する役割を果たします。

生活習慣の改善

ストレス管理

ストレスは消化性潰瘍の症状を悪化させる可能性があります。自身のストレスの原因を考え、可能な限り対処することが重要です。ストレスを軽減するためには、運動や友人・家族との時間を過ごすなど、自分自身に合ったストレス解消方法を見つけることが大切です。ストレスを完全に避けることは難しいですが、上手に管理することで胃・十二指腸潰瘍の症状の改善に役立ちます。

禁煙

喫煙は、胃の保護粘膜を傷害し、胃潰瘍のリスクを高める可能性があります。また、喫煙は胃酸の分泌を増加させることもあり、喫煙は消化性潰瘍の発症や悪化に繋がる要因となります。胃の健康を維持するために、禁煙を推奨しております。

アルコールの制限

アルコールの過剰摂取は、胃や腸の粘膜を刺激し、侵食して炎症や出血を引き起こす可能性があり、アルコールの過度な摂取は消化性潰瘍のリスクを高めることがあります。胃や腸の健康を維持するために、アルコールを摂取する際は、適量を意識しましょう。

鎮痛薬が原因だと疑われる場合

もし鎮痛薬が原因とされる場合、他の薬に切り替えることを検討します。定期的に鎮痛薬を使用する場合は、胃潰瘍のリスクを低減するために、医師と相談してリスクの少ない薬を探すことが重要です。

治療後はフォローアップが
大切

消化性潰瘍の治療は、PPIやP-CABを内服することにより、ほとんどの場合で治癒します。ただし、症状が重い場合や治療後も症状が持続する場合は、他の原因を除外するために内視鏡検査を検討することがあります。
症状が持続する場合や他の潜在的な問題を除外するためにフォローアップ検査が必要かどうかは、医師に相談してください。内視鏡検査などの追加の検査を受けることで、症状の原因をより正確に特定し、適切な治療に繋げることができます。

治癒に失敗した場合

通常の治療で治癒しない消化性潰瘍は、難治性潰瘍と呼ばれます。潰瘍が治癒しない理由は下記となります。

  • 薬の指示に従って服用していない
  • ピロリ菌が適切に除菌されていない
  • 定期的な喫煙習慣がある
  • 鎮痛剤(NSAIDなど)の定期的な使用により潰瘍リスクが増加した
  • ゾリンジャーエリソン症候群による極端な胃酸の過剰産生が起きた
  • 胃癌の可能性がある
  • クローン病など、胃や小腸に潰瘍を引き起こす他の病気の可能性がある

難治性潰瘍の治療では、治癒を妨げる可能性のある要因を取り除くことが必要です。
以前と比べて、最近では効果的な薬の開発が進んでいるため、手術が必要なケースは以前に比べて少なくなっています。