逆流性食道炎

胃酸などが食道に
あがってくる逆流性食道炎

嘔吐胃液や胃の内容物が胃から食道に逆流してしまうことを胃食道逆流症(GERD)と呼びます。胃酸の逆流は一時的なものであれば問題ありませんが、胃酸の逆流が繰り返されて食道粘膜が炎症を起こしてしまうと、逆流性食道炎を発症します。適切な治療を受けずに放置すると、症状が長引き、日常生活に支障をきたすことがあります。
近年、日本における逆流性食道炎の頻度は増えており、約10%の人が逆流性食道炎になっていると推定されています。また逆流症状を訴える患者さんは17.7%ともっと多いデータがあります。
正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、食生活の変化やストレス、肥満などが関与している可能性が考えられています。
逆流性食道炎の治療には、食事療法や生活習慣の改善、胃酸分泌抑制薬、アルギン酸塩/制酸薬、消化管運動機能改善薬、漢方薬などが使用されます。また、重症な場合には手術治療も行われることがありますが、適切な診断と治療を受けることで、症状の改善や再発予防が期待できます。プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)といった優れた薬剤のおかげで、逆流性食道炎の治癒と維持は80~90%が可能になりました。

逆流性食道炎の
症状と原因

症状

逆流性食道炎の自覚症状には次のようなものが挙げられます。

  • 胸やけ、胸がムカムカする、胸の灼熱感(カーっと熱くなる)
  • 呑酸(酸っぱい、苦いものを口に感じる)
  • 逆流症状(胃酸、胃の内容物、げっぷなど)
  • 喉枯れ、喉の違和感や異物感
  • 咳症状

  • 胸痛
  • 胃もたれ

原因

食道と胃のつなぎ目には、「下部食道括約筋」という筋肉があります。この筋肉は通常、胃の入り口を閉じて胃の内容物が食道へ逆流しないように働いています。しかし、下部食道括約筋が緩むと、食道へ内容物が流れるようになってしまいます。
胃食道逆流症の原因としては、①胃酸分泌の増加(食生活の欧米化、ヘリコバクターピロリ菌感染者の減少など)、②胃酸逆流防御機能の低下(肥満、加齢、食道裂孔ヘルニアなど)、③胃の内圧上昇(肥満や食べすぎ、コルセット着用、悪性腫瘍など)が考えられています。

逆流性食道炎に
なりやすい人は?

脂っこいもの、
アルコール、
炭酸飲料をたくさん摂る方

高脂肪食を過剰に摂取すると、下部食道括約筋の緩みが引き起こされる可能性があります。

食べ過ぎ・早食いの
クセがある方

胃内圧が上昇しやすくなり、それによって逆流が起こりやすくなります。

タバコをよく吸う方

喫煙の習慣がある方は、逆流性食道炎のリスクが高まります。

肥満の方、お腹を
締め付ける格好を
よくする方

腹圧の上昇によって、逆流が起こりやすくなります。

逆流性食道炎と
ストレスの関連性は?

ストレスストレスが溜まると、自律神経のバランスが乱れ、胃酸の分泌量や分泌のタイミングに影響を与える可能性があります。これにより、胃酸の過剰分泌や逆流性食道炎の発症リスクが高まることがあります。
ただし、逆流性食道炎の発症には個人の体質や他の要因も関与するため、一概にストレスだけが原因とは言えませんので、お悩みの方は、医師にご相談ください。

逆流性食道炎の検査

逆流性食道炎の確定診断には、胃カメラ検査が欠かせません。胃カメラ検査により、直接食道粘膜の状態や炎症の程度などを観察します。この検査は逆流性食道炎以外にも、類似の症状を引き起こす食道がんや胃がんなどの疾患を発見するのに役立ちます。
胃カメラ検査を行うことが難しい場合や異常が見つからなかった場合は、一時的な対処として胃酸の分泌を抑える薬を処方します。これにより一時的な症状の緩和を図り、患者様の経過観察を行います。
逆流性食道炎と症状がよく似ている他の疾患として次のようなものがあります。これらの疾患をきちんと鑑別して正しい治療法を選択するためにも胃カメラ検査がとても大切です。また胃がんや食道がんなどであった場合、放置してしまうと診断の遅れにつながり、命にも関わりますので、一度検査を受けるとよいでしょう。

胃カメラ検査で見た
逆流性食道炎(軽症~重症)

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逆流性食道炎と似た症状を
起こす疾患

好酸球性食道炎

白血球の中でアレルギー反応に関与する好酸球という細胞が、食道にたくさん集まり、慢性的な炎症を生じさせる疾患です。炎症が持続することによって食道の動きが悪くなり、食事が通りにくくなったり、ものがつかえる感じや胸やけ、胸の痛みなどの症状を生じます。さらに進行すると食道が狭くなって、食事が詰まってしまうこともあります。
我が国ではまれな病気と考えられていましたが、最近、疾患が知られるようになってきて、胃カメラで発見されるケースが増加しています。

好酸球性食道炎の内視鏡所見

その他の疾患

薬剤起因性食道炎
食道アカラシア
カンジダ食道炎(↓)
食道潰瘍(↓)
機能性食道障害(機能性食道障害、機能性胸痛、機能性嚥下障害など)
悪性腫瘍(食道がん、胃がんなど)

逆流性食道炎の
治療・治し方

治療には生活習慣の改善、薬物療法、外科的治療があります。
初めは生活習慣の改善と薬物療法を行い、それで改善されない場合は外科的治療を検討します。

生活習慣の改善

食事や生活習慣の改善が重要です。食事では脂っこい食品、酸味が強い食品、辛い食品などの刺激物を避け、ゆっくり食事を摂ることが大切です。
また、食事後にすぐに横にならない、寝る前の食事を避けることも重要です。

肥満がある方

食生活の改善、運動療法、行動療法、減量手術などによる体重の減量が有効です。内臓脂肪の減量により胸腔・腹腔間の圧格差が減少し、胃・食道逆流が減少します。

喫煙される方

喫煙は下部食道括約筋を弛緩(ゆるむこと)させ、逆流を引き起こします。禁煙をすることで逆流症状が減少することが知られています。

夜間に症状が出る方

遅い時間の夕食を避けること、就寝時に頭の位置を高くすることが有効です。できれば夕食は寝る前4時間以上あけると良いとされていますが、お仕事の関係で難しい方は、寝るときに頭の位置を25cmほど挙上すると良いでしょう。

逆流性食道炎になったら
知っておきたい食事

逆流性食道炎の方にお勧めしたい食品は下記となります。

  • 柔らかめに炊いたご飯
  • おかゆ
  • うどん
  • 食パン(菓子パン、調理パンなどは避けてください)
  • 鶏ささみ
  • 白身魚
  • 牛乳
  • ヨーグルト
  • 豆腐

薬物療法

胃酸分泌を抑制する薬を処方します。これにより胃酸の量を減らし、食道への刺激や炎症を軽減します。また、胃酸を中和する薬や胃内の運動を改善する薬を併用する場合があります。プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)が 第1選択薬として用いられ、80~90%の方はこの薬のみで良くなるとされています。
これらの薬だけでは改善が得られない場合に、アルギン酸塩/制酸薬、消化管運動機能改善薬、漢方薬などのお薬を併用して使うことで改善が得られる場合があります。これらのお薬を使用する際には、経験の豊富な消化器内科専門医に相談するとよいでしょう。

手術療法

重度の逆流性食道炎や合併症がある場合には、外科的な処置が必要となることがあります。例えば、食道括約筋を強化する手術や逆流を防ぐための手術を行います。